素晴らしい感想をいただいたので掲載させていただきます。
ふとした拍子、お気に入りコートのボタンが弾ける。まじまじ見るとパンダっぽい。寒さに堪えかねて便所に駆け込む。用を足すべく覗き込めば、便器の栓がやっぱりパンダっぽい。いようっパンダ!あはは。『アーバンギャルド・天才馬鹿』はそんな映画である。?
発見は至るところに落ちているものだ。用途不明のドア、住所不定者の毛布。夕餉の頃合に響くピアノ。細部に宿る神とは日常を歪ませる波動のようなものではなかったか?しかし、それは気付かない人にはとことん無意味なのである。?
子供の頃、こんな話を聞いた。悪ガキどもの仲裁を終えた後、担任の三好先生が決まってする話だ。?
「みんなが死んだら、天国と地獄のどちらかに行く。その違いが分かるかい?まず、どちらにも大きなテーブルがある。テーブルの上には食べ切れないほどのご馳走が載っているんだ。天国の人達はナイフとフォークを使って丁寧にそれを食べる。でも、地獄の人達はご馳走をぽろぽろ零してしまう。なぜだと思う?」?
一呼吸置いて、先生は続ける。?
「腕が長いんだよ。地獄の人達はみんな、普通の三倍は腕が長いんだ。しかもその腕はちっとも曲がらない。だから地獄の人達がご馳走に手を延ばしても、口に入れる寸前で零してしまうんだ。手を伸ばしてはぽろりと零す。再び伸ばしてまた零す。地獄の人達はずっとそれを繰り返しているんだ」?
今からすれば見え透いた教訓話だが、当時は強烈な印象が残った。?
同じ場所で時を過ごした彼ら(学校というのは結局、同じ場所で違う誰かと過ごすところだ)に取り、この話に対する反応は二つだったように思う。曖昧な同化、若さからの反発。教室の片隅で僕だけが違うことを考えていた。?
「腕が長いなんて、しかもそれが曲がらないなんて、すごく素敵じゃないか!」?
この瞬間、全く予期せぬ方角から僕一人がアングラの薫陶を受けたのだと言っていい。後年体験することになる清順寺山、あらゆるカルト作品との邂逅は、僕に取って楽園を縁取る作業に他ならなかった。あなたのせいですよ三好先生。?
というわけで、この映画の登場人物は腕の曲がらない人ばかりだ。だが、その腕は通常の三倍は長いのである。脱力必至な笑いの間隙を突いて、彼らはしきりに訴える。気付け、と。?
またある側面において、本作はガールズムービーでもある。?
主人公桃青は詩のボクシングに敗れたことから自暴自棄になるが、うーじーでんー!(元ネタはうーやーたー!か?)の力によって天才化。モテモテ状態になったのも束の間、力を奪われ、最後には自分の内面を見てくれる女の子と寄り添って幕となる。?
画面中を所狭しと跳ね回る少女たちの過剰装飾っぷりはまさに「病的にポップ、痛いほどガーリー」(音楽担当アーバンギャルドが映画に見事なリズムを与えている)なのだが、この展開はなにかと似ていないか?トビオが装着するキューピーはアトムであると共に、例のハンサムスーツの変型ではなかったか??
しかし件の映画が「顔も性格もいい女掴まえてラッキー!」というご都合主義的ラストであったのに比して、本作にはそうした嫌らしさがない。?
これはひとえに、さそり監督の映画に対する愛がなせる業であろう。ジョン・ウォーターズも石井輝男もびっくりの変人たちの長い腕には、こう書かれてある。?
「目を凝らせ。そして気付くんだ。ヒントは至るところにある。試しにディスクデザインをごらん」?
だけど本当に気付いてしまったら大変だ。楽しくて楽しくて、三好先生の話が耳に入らなくなるから。
感想を書かせていただいた脱輪です!わざわざ掲載していただきありがとうございます。
この画像、いいですねえ。