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意地悪じじい―――その一
    2009.11.21 [ Sat ] 0:00
国技―相撲

想像してみねえ、歌舞伎座でハリウッドスターのジョージ・クルーニーが勧進帳で弁慶をやり、フランスの若手スターのブノワ・マジルが義経をやっている風景を!それでも日本特有の伝統文化だと胸を張れるかい?!

今月の国立劇場の出し物、リチャード・ギア主演の「魚屋宗五郎」てんだ!

もう死んでしまった司馬遼太郎だったと思うが、ジーンズは始め、アメリカのカーボウイが穿いていて、アメリカの独特の文化だったんだ、それが世界中の男も女も穿くようになりゃア、それは文明ってんだ!と言っていたような気がするぜ。

柔道はとっくに日本の武道ではなくなってるだろう、そうなりゃただのスポーツ競技だァな、そこには、武道の精神なんぞあるわきゃねえ、あの北京オリンピックの無様な柔道と称する、まがいもんのレスリングを見てみねえ!

相撲もそうだろうが、文明にはまだ程遠く、それでいて日本独特の文化としての「相撲道」が壊れてしまった無様さが、相撲協会のジレンマだろう。

過って、栃錦・若乃花、あの両者の凄まじい相撲の極致を観て育ったわしだァ、その後大鵬・柏戸、これも一歩も引かない両者だった。そして千代の富士、貴乃花あたりまでが相撲だったのだ。

何故壊れてしまったのか、文楽のように衰退していくのが怖かったんだ。あまりにも銭が儲かる世界でもあったからな、文楽の如く絶対に文明にはならない地味で高度な芸術性を汲々と守り続けるのが文化なんだ。

直径四メートル五十五センチの土俵の上で、一瞬を争う相撲は、神に奉納し、五穀豊穣を願う神聖なる儀式でもあるんだ。神に許された者のみが横綱の名誉に浴し、落ちることの無い頂上で、束の間――綱を張ることが出来るのだ。

そんなことがあのモンゴルの餓鬼に解かる訳もなかろう。またそんな精神を今や親方衆も建て前としては知っているだろうが、やはり気になるのは自分の部屋の力士の勝敗のみだァな、勝敗と力士の出世が即、銭に結びつくからな。

そうなりゃ、相撲協会は客の入りが一番問題だ、外国の選手だろうが、ロボットだろうが連れて来たくなるのが人情ってもんだろう。

来る方も、「相撲道」に憧れて来たわけじゃねえ、勝てば銭が稼げる!この一点だァな。

しかし、この事態をいつの間にか国民が許し、楽しんでいるなら、まあいいか、とも言える。相撲は世界的にはならんだろうし、日本という小さな世界で、青い目のお相撲さんの活躍に喜んでいても罪は無いかもしれん、日本人がどこまでけじめが無くなったか、いいバロメーターにもなるからな。ただし、このままにしてたら、外国の選手は柔道みたいに体重別にしてくれとも言い出しかねないぜ。やはりここは、まがいもんでも、「相撲道」を根本から叩き込まなけりゃならんだろう。

ついでに言っておくが、近頃のチャンピオンはマス・メディアが作り出すまがいもんばかりで、そこに美しさがまったく無い、マス・メディアに品格が無いくせに、品格、品格というのも笑ってしまうぜ。

亀田だか、駄目だ!だか、知らんが、テレビ局が作り出した一番下品な代物をでっち上げといて、叩き落す、この繰り返しだろうが、監督が野放しにしていた馬鹿女房を囃し立て、叩き落す!細木和子は叩き落される前にうまく立ち回ったわな。

その前はオウムの麻原だ、あの御一党さんでどれだけ視聴率を稼いだことか!

視聴率だけが問題の世界がどのくらいこの世を汚しているか、この件は別のところでじっくり書きたいもんだ。ただ一言警告しておくが、今のテレビのリモコンは非常に便利で、一瞬でチャンネルを変えられるのだ、どうしても行き場がなけりゃ、NHKでしばらく休み、コマーシャルが終わったタイミングでチャンネルを戻す、要するにコマーシャルを見ないのだ、だから、繋ぎ止めておくために、各局がコマーシャル前にやる、やり口も、昔の紙芝居のごとく、いやらしくも幼稚な幕切れで引っ張ろうとするが、客のほうも、特に意地悪じじいはコマーシャルを見ない!というゲームを楽しんでいるぜ。

テレビ局の存亡がかかっている事態に気づいているのだろうか?

景気が悪いからと、簡単に考えず、どうしてこんなにテレビ局の売り上げが落ちたのか、根本原因を考え反省する時じゃねえのかい!

何よりも、テレビで票を稼ぐ政治家。本が売れ、講演料が高くなるコメンテイター、彼等は絶対にテレビ自体を批判はしないだろう。

大出版社のやったことが、今ブックオフで小説が目方で売られていやがる。

どうしたら売れる本を出すか!テレビの視聴率と同じだわな、そうなると新人の作品には厳しく重箱の隅をほじくり返し、有名作家の駄作に気も付かず、どうしたら売れるかだけを、漫画育ちの編集者が考え、本の乱出版をしているから、新刊本より安いブックオフに客が行くに決まっているだろうが‐‐‐

しかも、作家にはいくらブックオフで本が売られても再販料が入らない、どれだけの資料を読み、どれだけの頭脳を駆使して書いたものか‐‐‐大出版社の使い捨ての結果、まともな作家達はほとんど飯が食えないだろう。その出版社の姿勢を批判する物書きは居ない。

まあ俺もその立場になりゃ批判しないかもしれん、これが困った人間の弱さだァな、此処でこんなに偉そうなことを書いていても、いざとなると、権力におもねる、そうよ、意地悪じじいの正体なんてそんなもんだろうよ、今のうちに、もうあの世も近いから、がんばって、精一杯、己自身に対してと同時に世間様にいやがらせをほざいているわけだ。孤独な意地悪じじいは、めげないために必死に突っ張ってるわけさ。

ただ、意地悪じじいの今夜のはかない夢は、永田町の役人の中にも、良心を持って国の行く末を考えている者もいると同じように、テレビ局のプロデユーサー、ディレクターにも骨のある人々がいるだろうし、内心これでは遺憾と嘆いている者も居るはずだから、コマーシャルの音量も少しは考え、朝から晩まで、天気予報、料理なら料理、スポーツならスポーツ、ワイドショー、お笑い、と、ただ芸もなく横並びの詰らんものだけで争わず、コマーシャルの時間合わせをしているのだから、全局の代表が合同会議を開き、もう一歩レベルアップした作品、それぞれの個性ある作品で横並びすれば、少なくとも、限りなく堕落していく国民の精神民度を引き上げ、国自体の品格も上がると思うのだ、そのレベルの作品が横並びしてれば、国民はそれしか見れないのだから、国民を少しでも導いていくことが出来るはずなのだ。

国民を戦争に駆り立てることも出来るし、限りなく堕落させることも出来るのが、テレビであろう。

最近起きた、秋葉原の殺人事件を考えてみねえ。

車で突っ込んで、七人を殺す時間がたったの二分だったんだ!あのリズムがゾッとするじゃねえかい!二分で七人刺し殺す!一人殺すんだって、ドストエフスキーの『罪と罰』の中のラスコニコフはどれだけ、ああでもない、こうでもない、と考え悩んだ末のことだったか‐‐‐今までは少なくとも一般の殺人者は、それが、狂気だとしても、人を一人殺すのに、相当考えた筈だ。

戦争ではなく、平和な世界で人を殺すという殺意を文学にした、カミュの「異邦人」は、人間の殺意というやつだけを取り上げて、ノーベル文学賞をとっているのだ。

あの二分で七人刺し殺すリズムは、今テレビでやたら無様に流行っている、一発芸のリズムだろう。

ほんの三分考えれば、己のやることを少しは意識しただろう。一時間の落語を聞く理解度も忍耐力もない頭脳になってしまった若者達が、一瞬の芸ともつかない、おふざけに笑う姿の淋しさよ!十行のメールで、今日何食べる?洋服は何色にする?程度で生きていやがる。

その挙句、己が死にたかったから、他人を殺すってんだ!それでいて、警官に銃を向けられたら、あっさり凶器を捨てて、撃たれるのを回避する理性だけ残っていやがった!何故、警官に立ち向かって撃たれなかったのだ。

銃を抜いた警官も周りの群集に「何モタモタしてるんだ!早く拳銃を抜け!」とはっぱをかけられ、へっぴり腰で拳銃を抜いて構えたってんだ!その風景はまさに漫画だろう!しかし漫画の風景の中で、人の命がリアリズムに七人消えているんだ!意地悪じじいから見ると、まさに世の中、漫画のような世界で、人間の命が残酷に消えているのだ!

しかし、ここで言っとくが、今の若いお笑いタレントが漫画世界の中で芸を捨て、人格を捨て、死に物狂いでその一発で受けようとする姿がまたいじらしいじゃねえかい!

芸人をそこまで視聴率と銭稼ぎに追い込んでいる大本を考えてみねえ!

また今夜も眠れそうにねえぜ!

テレビも考えようによっちゃ、国技だぜ、国の品格が問われる世界なんじゃねえのかい?
 
 

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俳優

亀石征一郎

1938年、東京都港区生まれ。東映の第6期ニューフェイスとして芸能界入り。「水戸黄門」をはじめ、「江戸を斬る」「必殺」シリーズなど、数々の時代劇で悪役として活躍。また実写版「明日のジョー」で力石徹役を演じて話題に。平成17年「フライングタワー」で作家デビュー。2009年に『ジャバを生き抜く「悪行力」-世の「偽り」を見破る悪の掟』(経済界)を発売。