エンターテインメントとアートと接待(3)
    2009.05.16 [ Sat ] 15:51


良き娯楽、とは何でしょうか。

僕は『質の高い時間を過ごせるモノ』だと思います。


では、悪い娯楽とは。

その反対として定義すると、

『質の低い時間を過ごさざるを得なくなってしまうモノ』

になります。


この2つに共通していること。

それは、

『ユーザーにとっての娯楽とは、本質的には価格が関係無いもの』

ということでしょう。


今回は、質の高い娯楽とは何ぞや?という事を考えながら

書いてみたいと思います。


前回書いた"サービスにはコストがかかります"という話は、

提供する側の都合だとも言えます。

提供される側は、それが高かろうが安かろうが...

ダメなモノはダメなわけです。

安いから納得するというのは、被害を被った自分に対する

慰めにしかすぎません。


ゴハンを食べに行ったとして、高くて不味いお店には怒りがわくと思います。

でも、安くて不味いお店に行った後に残るのは、自分に対する虚しさや

哀しさではないでしょうか。

怒りのぶつけ所が無い、という点においては"安くて不味いお店"の方が

ダメージ大きいと思います。


高い価格を払えば、よりよりサービスを受けられる確率は上がります。

しかし、それは宝くじをたくさん買うのにちょっと似ていて・・・

必ず当たるモノとは限りません。


では、どこを見れば質の高い娯楽に当たるのか?

エンターテインメントコンテンツの場合、僕は"基礎力"と"熱量"に分けて

考えることが多いのですが...


基礎力 = 市場性×安心感×違和感

熱量 = 作り手の熱量×それを維持できた期間の総面積


こんな感じです。

基礎力とは、そのコンテンツが持っている潜在能力ともいえます。

どれだけ努力して作ろうが、間違った方向を向いたモノは売れないか

面白くないかのどちらかです。

ここが弱いと、接待ではなく『ひとりよがり』や『アート』に向かってゆきます。


市場性

ジャンルやフォーマットが確立されている

その地域(国)に受け入れられる要素


安心感

既に見たことのあるキャラクターが存在している

既に見たことのあるシステムやジャンルである

入りやすそうなイメージがある

体験終了まで、適度なストレス感を味わえる

宣伝の規模や手法


違和感

見たことのない要素がある

既存の要素組み合わせとは違う手法でアレンジがなされている

宣伝の手法


まあこんな感じでしょうか。

安心感と違和感が掛け算になっているのは不思議かもしれませんが、

エンターテインメントは

『どこかで知っている要素があるモノ』

でありながらも

『どこでも見る要素ばかりのモノ』

ではダメなわけで、刺激のスパイスは絶対に必要なのです。

安心感と違和感を乳化させるのか、それともアクセントとして

分離させるのかはコンテンツ次第なのですが...。

安心感の中にさえ、ストレス感という要素が入りますから。

(※これについては次回に触れてみたいと思います)


例えば、NintendoDSの爆発的ヒットを牽引した『脳トレ』について。

このコンテンツは、ゲームのジャンルとしては全く確立されていない

モノでしたが、安心感の醸成がハンパではなく、新しいゲーム機の

使い方を提案するという違和感もキッチリとおさえられています。


さらに同型(同系)のコンテンツを周辺にちりばめることによって、

さらなる認知と安心感(=DSを買っても無駄にならずに、長く遊べる)

を創り出し、それが存在感として固まったわけです。

その存在感を市場性に変化させ、2で爆発的なヒットを記録する。


これは、最も気持ちいいパターンです。

違和感をポジティブに活かすと"オリジナリティ"や"個性"と言われる要素になります。

ここを可能な限り大きくするのが、作り手としては最も面白いわけです。


しかし、それは危険な誘惑でもあります。


すんげぇ長くなったしまったので、続きます!

次回は最も大切な『熱量』について書きます。


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ゲームクリエイター

稲葉 敦志

1971年8月28日石川県金沢市生まれ。1992年よりゲーム業界に入り、ゲームメーカー数社を経て1998年に株式会社カプコン入社。2000年よりプロデューサーとしてゲーム制作に携わる。カプコン開発部長を経て、2004年、開発子会社クローバスタジオ株式会社の代表取締役に就任。2006年より独立し、現在はプラチナゲームズ株式会社の取締役&プロデューサー。